第3章 ありたい姿・課題からはじめる推進体制と計画
3.1 「AI導入ありき」にしない
AIの導入そのものを目的にすると、「導入して満足してしまう」「導入したが使われなくなる」といった誤った投資判断に陥りがちです。まず3〜5年後の自社の『ありたい姿』を描き、その実現を阻む経営課題を特定したうえで、その解決手段の一つとしてAIを位置づけます。
考え方は次の3ステップです。①3〜5年後のありたい姿を描く、②そのために解決すべき課題を特定する、③課題ごとの解決手段としてAIを当てはめ、優先順位をつけて導入する。下表はその対応例です。
| ① 3〜5年後のありたい姿 | ② 解決すべき課題 | ③ 解決手段としてのAI(例) |
|---|---|---|
| 少人数でも受注を増やせる体制 | 見積・提案書の作成に時間がかかる | 生成AIで見積・提案のたたき台を作成 |
| 若手が育ち、技術が継承される現場 | ベテランの知識が共有されない | 社内ナレッジAI(RAG)で知見を共有 |
| 残業を減らし、利益率を高める | 書類・日報作成の負担が大きい | 生成AIで日報・報告書を整理・要約 |
| 事故ゼロの安全な現場 | 危険の予兆を見逃しやすい | 画像解析・予測AIで危険を早期検知 |
重要なのは、導入後に課題解決までやりきることです。そのために、誰が・いつまでに・何を達成するかを定めた推進計画と、進捗を管理する推進体制をセットで用意します。AIは課題解決の手段であり、その成果(時間削減・受注増・品質向上など)で評価します。
3.2 推進体制 ― 役割・会議体・マニュアル
大企業は専任部署(戸田建設「GenAI推進課」、大成建設「AI CoE」など)を設けていますが、中小企業に専任部署は不要です。総務・工事・営業から1名ずつ選ぶ「AI活用小チーム」で十分に機能します。役割を明文化し、相談先を決め、進捗を管理する仕組みをつくります。

(1) 最低限おくべき役割
| 役割 | 担うこと |
|---|---|
| AI導入責任者 | 方針・推進計画の決定、ルールの承認、利用ツールの選定・許可、重大リスクの判断、進捗の最終確認。経営層または管理者が兼務。 |
| 現場相談窓口 | 「これは入力してよいか」「この使い方は問題ないか」といった日々の疑問に答える。ITに明るい若手リーダー等が適任。 |
| ルール改定担当 | 利用状況や新しいリスクを踏まえ、ガイドラインとマニュアルを定期的に見直す。 |
(2) 進捗を管理する会議体
推進計画を「立てっぱなし」にしないため、進捗を確認する定期的な会議体を設けます。
- AI推進会議(月1回):出席はAI導入責任者+AI活用小チーム+各部門代表。短時間(30〜45分)で構いません。
- 議題:推進計画に対する進捗、活用状況と効果(時間削減量など)の共有、困りごと・ヒヤリハット、ルール/マニュアル改定の要否、翌月の取組。
- 記録:議事録を残し、決定事項に「担当」と「期限」を必ず明記する。
(3) マニュアルの整備
属人化を防ぎ、誰でも同じように使えるようにするため、次のマニュアルを段階的に整備します。
- 整備するもの:①利用ルール(本ガイドラインの要約版)、②ツールの操作手順(ログイン〜基本操作、画面写真つき)、③業務別の使い方(プロンプト例つき)、④入力可否の早見表。
- 作り方:いきなり完璧を目指さず、まず効果の高い1〜2業務のひな形を作成 → 現場で試用 → 意見を反映して更新、という小さな改善を繰り返す。
- 運用:AI活用小チームが管理し、相談窓口に寄せられた質問をFAQとして追記。保管場所を全社で共有し、改訂履歴(版・日付・変更点)を残す。
3.3 推進のための活動 ― 誰が・何を・いつ
活動は「掛け声」で終わらせず、担当者・頻度・進め方・効果の測り方まで決めます。下表を自社向けに具体化してください。
| 活動 | 担当(誰が) | 頻度・タイミング | 効果の測り方 |
|---|---|---|---|
| 相談対応 | 現場相談窓口(指名された担当者) | 随時受付。原則1営業日以内に回答 | 質問件数・解決率を記録し、FAQに反映 |
| 教育・研修 | AI導入責任者が計画、小チームが実行(外部講師も活用) | 入社時+年1回以上+新ツール導入時 | 理解度テストの点数・受講率・研修後の活用率 |
| AI推進会議 | AI導入責任者が招集・進行、小チームが記録 | 毎月1回(定例日を固定) | 推進計画の達成度をKPIで確認 |
| 成功事例の収集・共有 | AI活用小チームが取りまとめ | 月次会議で発表 | 採用された事例数・横展開件数 |
| ルール・マニュアル改定 | ルール改定担当 | 半期に1回+必要時 | 改定件数・インシデントの減少 |
参考:戸田建設「AI活用を“全社標準”にする3つの施策」(方針・推進体制・教育の3点セット)